事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部118

静かな会議室に伊東の笑い声が最初は小さく、徐々に大きく響いた。 「俺のスマホの画面が監視カメラに写っているだと。映像として撮られている可能性はあるだろう。それは否定しない。しかし、メールやLINEの文面が見えているとは思えない。証拠があるなら出…

帝國銀行、人事部117

「伊東さん。どうしても正直にはお話下さらないのですね」やっと言葉を紡いだ。自分ながら心が弱い人間だということが実感される。 「クソが。お前と話をする時間がもったいない。俺は何一つ責められる要素はない」伊東は興奮し、唇の左端からよだれが垂れて…

帝國銀行、人事部116

伊東の濃いグレーのジャケットの胸元が細かく震えている。興奮しているのだろう。そして、田嶋が手を置く机から急激な振動を感じた。一瞬、地震が起きたのかと思ったが、伊東の上半身が揺れているところを見ると、伊東は貧乏ゆすりをしているらしかった。貧…

帝國銀行、人事部115

田嶋の剣幕に驚きつつ、伊東が座る。伊東でもおとなしく人の言うことを聞くことがあるのだと、田嶋はふと思った。 「私が、何の証拠も無く伊東さんを告発すると思いますか。なぜ二人だけで話をしていると思いますか」 田嶋は涙らしきものが自分に込み上げて…

帝國銀行、人事部114

田嶋が黙っていると伊東の肩ががくがくと動き出した。最初は泣き声のようにも聞こえるほど小さかった笑い声が徐々に大きなものに変わっていく。それと共に伊東の身体が大きくなったように感じる。伊東が当初のショックから立ち直り、自信を取り戻しつつある…

帝國銀行、人事部113

伊東が少し力の戻った目で田嶋を見返してきた。 「君は勘違いをしているんじゃないか。私がスマートフォンでやり取りをしているのは、親の介護などで問題があるからだ。それは君にも言っていただろう。メールの内容なら君らに開示しても良いぞ。何ら問題ない…

帝國銀行、人事部112

伊東に対して田嶋が問い詰める。 「伊東さん。私はあなたが悪い人だとは思っていません。経営統合の実務担当としてご活躍されただけでなく、人事部でも当行全体のことを考え、様々な施策をされていたことを間近で見てきました。感情を表さない伊東さんには冷…