事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝國銀行、人事部129

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 西山は初めてしっかりと田嶋を見た。どこか教授のような雰囲気を漂わせている。自然と田嶋は緊張で小さくなった。これがメガバンクの頭取の迫力なのだろう。

「そして、情報技術の発達は銀行が構築してきたシステムを否定する方向に動き出している。いわゆる中央集権のコストがかかる重いシステムから、分散型のコストが安いシステムへ移行していく途上にある。そして、もしかしたらビットコインに代表されるようなブロックチェーンの技術を使い、銀行が築いてきた信用を重視しなくても良い仕組みへ移行していくかもしれない。フィンテック企業は銀行の業務を少しずつ侵食してくる。一般の事業会社は金融市場から銀行を仲介しなくても安く資金調達できるようになった。我々銀行は既存領域で追い詰められていくだろう」

「では、我々帝國銀行はどのように進んでいけば良いのでしょうか」田嶋は先生に聞く生徒のように疑問の声を発してしまっていた。山中が横で田嶋の方を向いたような気がしたが、田嶋は西山から目が離せなかった。

「当行がどのように進んでいくかは、出来れば全行員が我が事として考えて欲しい。それが頭取である私の願いであり、山中君に人事部長として教育していって欲しいところだ」

「はっ」山中がすばやく頭を下げた。まるで殿様から命令された武士のような時代劇の一シーンにしか田嶋には見えなかった。