事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝國銀行、人事部130

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「といっても、田嶋君には私の考えていることを少しだけ伝えておこう。君は人事部の担当としてかなり多くの行員と接点を持つはずだから、私の考えを広めてくれるだろう」

「はっ」田嶋も山中と同じように頭を下げてしまった。権威に服従することを新入行員の頃からずっと叩き込まれているのだ。こんなことだから銀行は変われないのだろう。

「国内は、プラットフォーマーになるか、プラットフォーマーと組む。コストは究極まで削減し、ほとんどの業務をAI、RPAに担わせるところまで自動化を図る。個人分野で残る銀行は10行ないかもしれない。コスト削減した上で、アプリ等のユーザーインターフェースを改善し、ネットバンキング=帝國銀行と認識してもらうしかない。コストを究極まで低減させることが出来ればフィンテック企業には負けない。我々には信用がある。逆に言えば、今となっては信用しか武器は無い」ここまで澱みなく言葉を続け、まるで水泳で息継ぎをするように西山は言葉を一旦切った。笑顔だが、目は笑っていない。

「海外は、メガバンクが優位性を保てる分野ではある。しかし、欧米ではトップにはなれない。アジアを中心に根付くのが最も良い戦略だろう。没落していくマザーマーケットである日本の比重を落とし、アジアの銀行となる。アジアでは買収を続けることになるだろう。それに銀行だけを買収する訳ではない。証券会社もリース会社もカード会社も狙っていく。もちろんフィンテック企業も同様だ。これしか帝國銀行が生き残る方策はないのではないかと私は考えている」

 頭取執務室内につかの間の沈黙が下りた。西山の迫力に圧倒されたのか山中も黙っていてる。その中で、帝國銀行の行員代表として頭取に聞くべきだという意味不明な使命感に駆られて田嶋は西山に尋ねた。

「我々行員は大多数が必要無くなるということでしょうか」