事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

帝國銀行、人事部105

田嶋の脳裏に、いつかのエレベーターホールでの出来事がよみがえった。あの時も違和感を感じたが、今回は違和感というよりは、何かのアラームが頭の中でなっているようだった。 人事部の副部長に、銀行のOBで不動産会社の専務が頭を下げるなど、どう考えても…

帝國銀行、人事部104

「皆様が大事になさってきた愛甲石田支店は、商業施設として生まれ変わります。銀行の金庫は非常にめずらしい設備です。我々は、金庫を売りにした施設にしたいと考えており、既にテナントとしてのレストラン運営会社も内定しています。一日一組限定で、日本…

帝國銀行、人事部103

田嶋が伊東に対して、改めて疑問持ったのは、伊勢原市の愛甲石田支店の営業最終日に立ち会った時だ。愛甲石田支店は、元々近くに母店があることもあり、他の店舗よりも早めに店舗閉鎖を決定し顧客に案内していた。売却の入札も早々に終わっており、購入者は…

帝國銀行、人事部102

ある日、田嶋が再就職支援会社と打ち合わせを終え、応接室から出てエレベーターホールへ送っていく途中で、伊東がとなりの応接室から誰かと出てくるのが見えた。伊東と目が合うと、若干ではあるが嫌そうな表情をしていた。伊東と付き合いの長い田嶋だからこ…

帝國銀行、人事部101

ただ、田嶋の下には違う情報が入ってきてもいた。各店舗からは、人事部が来ているはずなの支店長や所属員との面談を行わなかったという噂話が入るようになった。徐々に神奈川県の旧Y店舗では、何のために人事部が同行しているのか分からないと言われるように…

帝國銀行、人事部100

この指針を見れば分かるように、銀行は積極的に外部へ店舗の空きスペースを賃貸できない。修繕も必要最低限としなければならず、その店舗で行われている銀行業務に比して過大ではない賃貸の規模とされてる。これでは、店舗を閉鎖した後に、空きスペースを大…

帝國銀行、人事部99

旧Yの神奈川における閉鎖店舗は、基本的には売却することになった。主に親密な不動産会社に声をかけ入札していくことになる。 銀行の店舗は好立地の場所に存在していることが多く、不動産としての価値は高い。よって、銀行は業績が厳しければ、店舗を不動産…

帝國銀行、人事部98

銀行の営業には様々な厳しさがある。特に個人業務に携わると「数字が人格」と言われかねない。今は支店長や管理職も若干おとなしくなったが、 少し前まではパワハラが横行していた。目標という名のノルマを達成していなければ、人間として扱われないような職…

帝國銀行、人事部97

帝國銀行では店舗と人員のリストラ計画がスタートしていた。決算発表明けの5月発令、6月着任で多くの人事異動が発表された。神奈川県の店舗では約3,500名の行員のうち、約2,000名に発令が出た。ほとんどのリストラ対象店舗は、翌年の3月末までに閉店すること…

帝國銀行、人事部96

この再発防止策は不正防止のためのものだったが、実際には別の目的も入っていた。田嶋もまさかとは思ったのだが、経営陣の一部はこの事件を上手く使うことを考え付いた。すなわち、お客様に対する集金業務の廃止だ。集金業務は現場の負荷が大きい。集金は、…

帝國銀行、人事部95

2週間後、捜査が一段落したタイミングで、帝國銀行は再発防止策と共に内部の処分を発表した。 処分は人事部の当初案のままだった。田嶋が心配した人事部の責任は不問に付された。 再発防止策は以下の通りだった。 (1)類似事案の発生防止の観点から、原則…

帝國銀行、人事部94

その矢先、横山が逮捕されたとのニュースが飛び込んできた。横山は潜伏先の香港で現地警察に発見された。マスコミは報じたが、規模は小さかった。結局、横山が横領した理由は、為替の先物取引での損失補填だった。横山は支店ではエースと呼ばれていたが、あ…

帝國銀行、人事部93

銀行は信用で成り立っている。 銀行の金庫には預金者全員が一気に預金を引き出せるほどの現金は眠っていない。預金者の預けた現金は、銀行が融資や有価証券で運用している。その資金はすぐには銀行に返って来ないのだ。 預金者は、銀行に預けておいてもいつ…

帝國銀行、人事部92

荻窪支店の前には長蛇の列が形成されている。年始に福袋を求めてデパートに並んでいる風景がテレビで報道されていることがあるが、その光景に近いかもしれない。但し、並んでいるのは高齢者が圧倒的に多い。皆が不安そうな顔をして、落ち着かない様子だ。中…

帝國銀行、人事部91

被疑者である横山の家族関係、交友関係が報道された。もちろん、横山が勤務していた支店名も報道された。報道の影響は大きく、帝國銀行荻窪支店には自身の預金が無事かを確認する預金者の列が出来た。 荻窪支店は、JR中央線 荻窪駅北口から出て徒歩数分の好…

帝國銀行、人事部90

田嶋は伊東と共に処分案の見直しを部長の山中と協議した。人事担当役員および頭取と山中が更に協議したが、現在の帝國銀行の規模および内部統制の仕組みの構築状況からして、現在の処分案から変更となることはなかった。但し、社外取締役から何からの指摘を…

帝國銀行、人事部89

銀行の横領事件では、滋賀銀行9億円横領事件が最も有名だろう。 1973年10月、滋賀銀行山科支店のベテラン女子行員である奥村が横領の容疑で逮捕された事件だ。奥村は山科支店勤務時代の6年間で、およそ1,300回にわたって史上空前の9億円の金を着服、ほとんど…

帝國銀行、人事部88

「横山は逮捕されていないはずです。警察からは連絡がありませんから。また、資金使途ですが、おそらく投資ですね。しかも海外への」 「こういう場合は、ギャンブル、酒、女というのが定番ですが、海外投資ですか」 「私の憶測ですが横山は日本にいない可能…

帝國銀行、人事部87

横領事件が発覚してから五営業日後に監査部の青木から田嶋宛に連絡があった。現時点で判明していることを共有したいとのことだった。 また田嶋が監査部のフロアに訪問する形となった。用事があるならば田嶋のところに来れば良いのにと思うが、年次は青木が上…

帝國銀行、人事部86

「森島さん。ちょっと来て下さい」伊東はいつもの敬語で田嶋と同じグループの森島を呼ぶ。森島は横山の人事面談を担当していた。 「森島さん。荻窪支店の横山課長代理が横領事件を起こしました」 「え? それはどういう」最後まで森島の言葉を待たず伊東が遮…

帝國銀行、人事部85

田嶋は人事部のフロアに戻ると副部長の伊東に監査部からの共有事項を報告した。 伊東はすぐに田嶋を伴い部長の山中のところに足を運ぶ。 「山中さん。田嶋さんから聞きましたが荻窪支店の担当者が横領を起こしたようですね」 「ああ。私のところにもメールで…

帝國銀行、人事部84

「承知しました。私はどのように対応したら良いでしょうか」 「人事部さんには、横山の今までの勤務履歴、個人の性癖、嗜好、交友関係等の情報を提供して欲しいと考えています。また支店に何らかの問題がなかったか、過去の行内処分事例をチェックしておくこ…

帝國銀行、人事部83

「そこでも横山の優秀さが現れている訳ですね」 「そうです。お客様は当初は横山のことを完全に信じ切っていまして、何かの間違いではないか、横山さんがそんなことをするはずがないと言っていました。最初は私と上司が訪問した際に、我々を詐欺師だとお考え…

帝國銀行、人事部82

「手口は?」 「人事部ならご存知でしょう。他行から現金でお客様に引き出してもらい、その現金を定期預金や投資信託・保険でお預かりしたことにしていました。証書の偽造ですよ。被害者は74歳の女性個人客。旦那様はすでに他界されていて一人暮らしです」 …

帝國銀行、人事部81

会議室に入ると青木は奥の席に田嶋を案内し、自分は入り口側の席に腰を下ろした。 田嶋は青木が話し出すのを待った。青木は無表情で、どのような用件かのヒントも読み取れない。 「田嶋さん。ご多忙の人事部の主任調査役にお越し頂いて申し訳ありません」青…

帝國銀行、人事部80

まだ肌寒さが色濃く残る3月の夕方に監査部の担当から田嶋宛に連絡があった。すぐに監査部の会議室に来てほしいという。田嶋は別フロアの監査部に向かった。 監査部は年次の高いベテラン行員が配置されることが多い部署だ。今後の支店運営を担うためのステッ…

帝國銀行、人事部79

旧Yの店舗は、出張所や小型店舗を含めて、所属員は平均20名だ。177店舗×20名=約3,500名が働いていることになる。 総務部は、神奈川県内の既存店舗の半分を閉店とする計画を策定している。単純計算して、約半数の行員が不要となる。それにデジタル化・セン…