事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

帝國銀行、人事部64

田嶋は副部長の伊東から個室の会議室に呼ばれていた。 時刻は20時30分。そろそろ帰りたい時間だったが、急に呼ばれたのだった。今日は自宅でご飯を食べると伝えたので、妻が何かしらの準備をしてくれているはずだ。もし、食べられなくなってしまったら申し訳…

帝國銀行、人事部63

「他に質問はあるか。何でも良いぞ。伊東君が珍しく興奮しているようだが、それだけの問題なんだ」山中がハリのある太い声で話しながら、周囲を見渡す。田嶋と目が合った。何か聞け、と山中が促しているようだった。田嶋と山中は比較的仲が良い。旧行は異な…

帝國銀行、人事部62

田嶋の視界の隅で手が上がった。あれは、四国担当の橋本だ。 「すみません。質問宜しいでしょうか」 「どうぞ」伊東が短く答える。 「廃店される店舗の総合職は異動させてしまえば良いので問題はないのですが、総合職が少なくほとんど一般職だけで運営してい…

帝國銀行、人事部61

『入社して配属されないと、どのような仕事が出来るか分からないこと』『自分の意思に関係なく違う職種に異動させられたり、転居を伴う異動をさせられること』は時代遅れと言われてきた。学生は就職時にこの観点で企業を選ぶことも多いだろう。このような働…

帝國銀行、人事部67

伊東は相変わらず田嶋をモノのように見ている。伊東の目は眼鏡の奥でビー玉のように光る。何の焦点も結ばず、感情も伺えなかった。まるで人形のようだ。 「当行に旧Yを食わせていく余裕は無い。これは業務命令です。旧Yの神奈川県内の店舗と事務担当の人員を…

帝國銀行、人事部66

「何度も言いません。旧Yすなわち我々の出身行の行員をリストラして欲しいのです。神奈川の店舗を田嶋さんが担当するのは、旧Yの店舗のみならず旧Yの行員のリストラをうまく着地させることを期待しているからです。田嶋さんは誰から見ても良い人です。君の仕…

帝國銀行、人事部60

一般職を無くした他の銀行も結局は何らかの形で一般職を復活させている。理由は、大量の事務だ。例えば、転居を伴う異動がある総合職と転居を伴わない総合職の2職種に人事制度を整理したとしても、実質的には転居を伴わない総合職がいわゆる一般職的な業務を…