事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

帝國銀行、人事部54

山内が泣いたような目で田嶋を見つめる。 「田嶋君の手を私が握った写真を撮ったのは岩井支店長なの」 ふいに田嶋は現実の世界に引き戻されたような衝撃を受けた。 「え?」 「そう。私は裏切り者なの」 「山内さんは何を言っているの」 「聞いて。岩井支店…

帝國銀行、人事部53

翌日、岩井の人事異動が発表された。銀行の人事異動では理由は明かされない。その後、しばらくしてから岩井はパワハラで飛ばされたとの噂が流れた。それだけだ。尚、中野坂上支店から仙台支店に異動した稲垣は、しばらくしてから真島と結婚した。真島はその…

帝國銀行、人事部52

出勤すると伊東がすぐに会議室に来るように指示を出してきた。机からノートだけを取り出して、伊東の後を追う。いつもの殺風景な会議室に山中がいた。伊東が自然な形で山中の横に座る。田嶋は山中の目の前にテーブルを挟んで座った。今日の山中のネクタイは…

帝國銀行、人事部51

その後、山中からの音沙汰はしばらくなかった。 伊東も田嶋には何一つ話をしてこない。田嶋は焦燥感に駆られながら、業務を行うしかなかった。夕方になると暇になってしまうため、調べたかった様々な情報をネットで収集している。例えば、世の中の企業におい…

帝國銀行、人事部50

翌日、田嶋は6時にオフィスに入った。いつも通り山中は6時20分頃来るはずだ。既にセブンーイレブンで必要な書類は印刷してきてある。田嶋の自宅にはプリンターがない。代わりにセブンーイレブンのアプリを使っている。このアプリはアプリ内に印刷したい書類…

帝國銀行、人事部49

翌日、田嶋は人事部に異動してきてから一番早く退行した。18時30分にオフィスを出たのは初めてだ。昨日の怪文書が気になり、どうしても仕事に身が入らなかったのだ。 田嶋は、浅草にある行きつけのバーに足を向けた。 神谷バーは、1880年に創業した日本で最…

帝國銀行、人事部48

「証拠はありませんが、中野坂上支店の岩井支店長と少々問題を抱えております」 「山中部長からも、簡単な経緯は聞きました。では、岩井さんがやったということですかね」 「私には分かりません。しかし、今回の岩井支店長への対応の端緒は山内さんからの連…

帝國銀行、人事部47

山中に相談して二日が過ぎたころ、人事部宛に差出人不明の書面が届いた。宛先は山中人事部長殿となっていた。 午後一番に田嶋は副部長の伊東から会議室に呼ばれた。入室するなり、伊東が話し始める。 「田嶋さん。困ったことになりましたよ。」 そう言って、…

帝國銀行、人事部46

「田嶋君。岩井支店長の件はどうなっているの」そう尋ねた山内の目は真剣だった。 「このままだと、中野坂上支店は崩壊しちゃうよ。スタッフさんたちは次々と辞めたいって言うし、真島さんは今日も病欠。もしかしたら、病院で鬱になったと診断書を書いてもら…

帝國銀行、人事部45

「部長。岩井支店長は暴走しかけています。これは私の行動が裏目に出たものです。私へのお叱りはあるかと思いますが、まずは中野坂上支店への対処です。私としては岩井支店長の異動を諮って頂きたいと考えています。もちろん、部長から一旦は注意をして頂く…

帝國銀行、人事部44

二週間後、田嶋は山内にスマホからメッセージを送った。 『岩井さんの様子はどう?』 1時間ほどして返信された山内のメッセージは長い文書が記載されていた。 『岩井支店長のパワハラは加速しています。恐らく人事部から注意を受けたから、周りの部下全てが…

帝國銀行、人事部43

「田嶋、ちょっと来てくれ」 人事部長の山中に田嶋が呼び出されたのは翌日の朝7時30分だった。働き方改革が進んだといっても銀行の中で人事部は聖域だ。他部署には業務時間中にしか会議をやらないように指導していても、人事部内のミーティングは業務時間外…

帝國銀行、人事部42

「はい。認識しています。岩井さんの言動は業務に関しての指導であり、パワハラで問題になるような行動には該当していません。ただ、指導時間が長過ぎるというのは気をつけて頂いた方が良いかもしれません」 「分かったわ。でも、これじゃあ、人事部から責め…