事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

【建築家と会長②】(ヂメンシノ事件10)

石橋に対する奥平のライバル心は凄まじかった。例えば、石橋が勲章を受けた時も「なぜ自分が貰っていないのだ」と怒り心頭だった。その後、様々な手を使って奥平が勲章を受けられるように手配したのは平野だった。所管省庁である国交省への働き掛けのみなら…

【建築家と会長①】(ヂメンシノ事件9)

日本の有名な建築家に堂安がいる。この建築家は国際的にも有名だ。 堂安建築といえば、コンクリート打ち放しのミニマルなデザインを思い浮かべる人が多いだろう。一般の人でも名前を知っている稀有な建築家なのだ。重厚感を感じさせる建築が特徴であり、個人…

【競合先】(ヂメンシノ事件8)

平野のデスクの電話が鳴った。 「社長。」 秘書の成田の声が響く。今日も活舌の良い声だ。無駄も一切感じられない。 「マンション事業本部の真中常務からのお電話ですが、取り次いでよろしいでしょうか。」 「ああ、繋いでくれ。」一瞬の沈黙がある。 「真中…

【来訪②】(ヂメンシノ事件7)

「まず、少し誤解があるかもしれませんね。篠原さんは、御社に完全に売ると決めた訳ではありません。他にもかなりの値段でお申し込みがある大手さんがいるんですよ。しかし、御社が有利なのは間違いありません。」 場が凍り付いたのが分かった。井澤の横で、…

【来訪①】(ヂメンシノ事件6)

真中と井澤が所有者である篠原と会ったのは4月の初旬だ。 仲介会社のSYODAホールディングスの生田社長が満水ハウスの東京オフィスを面談場所として指定してきたのだった。 満水ハウスの東京オフィスは新宿にある。JR新宿駅の一番近い改札口から歩いても5分は…

【海猫館②】(ヂメンシノ事件5)

平野が真中から聞いたところによると、この海猫館を買わないかとの話が持ち込まれたのは3月末頃だった。東京マンション事業部の部長の井澤が、ハジメからの紹介で地元に情報網を持つ不動産会社から情報を入手したのがきっかけだ。 すぐに井澤はマンション事…

【海猫館①】(ヂメンシノ事件4)

JR山手線の五反田駅西口から桜田通り沿いを南西に向かい、目黒川を渡ると鬱蒼とした樹木に囲まれた一帯が現れる。そこに木々に囲まれた瓦屋根の旅館がみえてくる。 旅館を囲む外壁は古びた薄茶色のモルタルで壁が一部崩れている。門に向かって右手の壁には旅…

【満水ハウス】(ヂメンシノ事件3)

平野が社長をつとめる満水ハウスは、戸建やアパート建築の最大手だ。 社名の由来は孫子の兵法から取られている。 『勝者の戦いは、積水を千仭の谷に、決するがごとき、形なり。』 この意味は、勝利者の戦いというものは、満々とたたえられた水(積水)を深い…

【最初の電話】(ヂメンシノ事件2)

平野のデスクの電話が鳴った。 「社長。」 秘書の声が響く。 いつもの通り、はっきりと聞きやすい声だ。無駄なことを一切話さない社長秘書の成田からだった。もう少しくだけても良いと思うが、一切スタンスは変えない。もう秘書になってから5年は経つのでは…

【3月の霞ヶ関】(ヂメンシノ事件1)

「生田さん。話が急すぎませんか。」井澤の声が少し高くなった。 相手はSYODAホールディングスという不動産会社のオーナーだ。今回の『海猫館』の案件を紹介してきた人物だった。 「井澤部長。海猫館の所有者である篠原さんのところに他社さんから良いお話が…

【ブログ経済小説】ヂメンシノ事件/前書きに代えて

私が当ブログを立ち上げた目的は、若い時に「マニュアルでは学べない、銀行員として必要な考え方、知識を得る場が欲しかった」との思いがあったからです。 今回、小説を書こうと思い立ったのも、考え方や知識を得るためには小説という形態も有用ではないかと…