事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部125

頭取の西山善史は帝國銀行における大物だ。 本店調査部、融資部での勤務が長く、いわゆる不良債権処理で頭角を現した珍しいタイプのバンカーだ。通常の頭取は大企業営業畑が就くものだが、西山は企画部時代にも銀行の不良債権問題を解決するための奇策を次々…

帝國銀行、人事部124

頭取の執務室へは、まず秘書室を通る。秘書にアポイントの時間を伝えると、秘書室の中にある簡素な座席を示され、そこで待機するのだ。ここでは15分前行動が原則で、遅れることは許されない。部長の山中と田嶋は、ここで一言も発さずに待機した。田嶋は頭取…

帝國銀行、人事部123

田嶋からすると内容の薄すぎる対外発表文だ。 しかし、お客様への被害がある事案ではないこと、自行内部の問題でしかないこと、他の行員に不安と疑念を抱かせないことを目的に、プレスリリースはあっさりとしたものになった。年末年始のあわただしさの中、こ…

帝國銀行、人事部122

帝國銀行は12月26日の暮れが差し迫ったタイミングでプレスリリースを発表した。 元行員による不祥事件について 帝國銀行 頭取 西山善史 この度、当行におきまして下記の不祥事件が発生いたしました。 社会的・公共的な役割を担い、高い信用と倫理観を求めら…

帝國銀行、人事部121

「二人きりで面談しているのは、どうしても私が知りたいことがあったから無理にお願いしたんです。教えて下さい。なぜ旧Yの皆を裏切ったんですか」 獣の唸り声のようなものが、伊東という人間の形をしたモノから発せられた。最初は少し高くかすれた泣き声の…

帝國銀行、人事部120

「お前、なにやってんだ」 「私も暇じゃないんですよ。でも、クビをかけて人事部長とコンプライアンス部長に直談判して、今回の一連の調査を認められました。伊東さんの横領事件裁判で、私の記録が証拠として認められるかは分かりません。そもそも、銀行とし…

帝國銀行、人事部119

「11月23日11時23分通話スタート。植北さん。仕事中に電話してきたら困りますよ。例の件、総務部内の協議は終わりました。だいぶ早いクリスマスプレゼントです。」 伊東の身体から立ち上る空気が変わったのが田嶋には分かった。 「11月26日16時13分通話スタ…