事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【10月19日取締役会①】(ヂメンシノ事件28)

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 この日、奥平が組織した第三者対策委員会の中間報告書が取締役会で報告された。

 和久取締役が委員会を代表して、取締役会にて報告を行う。和久取締役は社外取締役である。満水ハウスのプロパー社員であったわけではない。和久が創業したエクステリア企業は満水ハウスとの取引上の付き合いは無いが、造園事業を営んできたこともあり業界への造詣は深い。そして、満水ハウスとの資本関係がある満水化学工業の社外取締役も兼務している。その縁もあって、満水ハウスの社外取締役となっていた。東京都市大の特別教授も務めており、TVでコメンテーターを行うことも多い。日曜日の朝の番組にレギュラー出演もしている。

 「まず、お手元の資料をご確認ください。」和久の冷静な声が響く。

 「資料は時系列で今回の詐欺事件の事象をまとめてあります。委員会のトップとしてお伝えしておきたいことがあります。今回の詐欺事件は、結果論にはなるかもしれませんが、避けられないものではありませんでした。アラームは鳴っていたということです。例えば、内容証明郵便が会社に届いたという事実。この時に、真の所有者と名乗る人物になぜコンタクトを取らなかったのか。物件の内覧の日に警察から任意同行を求められても疑問に思わない。これはなぜか。まだ中間報告の段階ではありますが、一つの仮説が浮かび上がります。」ここまで和久が一気に言葉を繋いだ。一度、手元の書類に目を落とす。そして、決意を固めたように目線を上げた。平野と目が合った。和久が目線をそらす。和久は全取締役と目線を合わせるように全体をゆっくりと見渡し始める。

 「対策委員会は、まだ完全に分析ができているとは言えません。しかし、一つの仮説には達しています。今回の事件における重要な要素は、当該事案がトップ案件ということです。すなわち、平野社長が先に取得にOKを出してしまったが故に、他の誰もが疑問を差し挟めない案件になってしまったのです。本来は牽制機能を働かせるはずの、不動産部も法務部も役割を果たしませんでした。社長に忖度してしまったのです。」

(続く)

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ヂメンシノ事件