事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【最終内覧②】(ヂメンシノ事件16)

 内覧は短時間で終了し、揃って外に出た。

 大山が勝手口を施錠し、敷地の外に出たところで警官から声をかけられた。

 「ちょっとよろしいですか。」

 2名のうち、小柄で丸顔の警官が声をかけてきた。眉毛が濃く、童顔だ。

 「五反田警察ですが、少しお話を聞きたいのですが。」

 「どういうことでしょうか。」

 警官からの要求は突然だった。井澤は面食らいながらも疑問をぶつけた。

 「いえね。こちらの物件、海猫館の所有者を名乗る方から、誰かが不法侵入で敷地に入っているとの通報がありまして。」

 「それなら、私は無関係ですよ。所有者さんはあちらです。」井澤が大山を指す。
もう一人の警官は大山に事情を聞いているようだった。

 「あなたが所有者でないことは分かりました。すみませんが、もう少し詳しくお話を伺いたいので署まで同行頂けませんか。」

 「どのようなご用件でしょうか。なぜ私が警察署に行かなければならないのですか。そういうことは所有者さんと話をしてくださいよ。」抵抗したものの、さすがは警察官。暖簾に腕押しと言えば良いのか、有無を言わせぬ迫力もあり、井澤は警察署に同行することになった。

 警察から解放されたのは早かった。「なぜ海猫館にいたのか。会社はどこか。」そんなことを聞かれただけだ。

 『警察に不法侵入で通報されるとは。他社の妨害だろうが、しつこい。しかし、よほどヤマトはこの土地を買いたいようだ。邪魔が入るほど海猫館は貴重なのだ。絶対に手にいれる。』

 そんなことを考えながら警察官の質問に井澤は答え続けた。手間がこれだけかかるのだ。なおさら、海猫館を手に入れたかった。まあ、ほとんど手に入っているも同然だったが。

(続く)

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ヂメンシノ事件