事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【7月20日①】(ヂメンシノ事件23)

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 7月20日の取締役会は紛糾した。

 まず、五反田の詐欺事件の現時点での調査内容が報告された。
  • 詐欺師グループと接点を持った経緯に不審な点はないこと
  • 偽所有者の本人確認はパスポートにて実施しており精巧な偽造だったこと
  • 所有権移転登記の仮登記申請時は実際に登記が出来ていたこと
  • 真正な所有者からの通知が届いていたが他業者からの妨害だと考えていたこと
  • 仲介会社からも他業者からの嫌がらせであるとの示唆があったこと
  • 実際に詐欺師グループが鍵を開けて海猫館内を案内しており真正の所有者であると信じるに足りる事象があったこと
  • 詐欺師グループが収益物件の購入も持ち掛けていたことから、東京マンション事業部が更に相手を信用し、重要視してしまっていたこと
  • 案件審査部署である不動産部は調査を行ったが判断にスピードが必要だったため調査不足となってしまった可能性があること
  • 法務部は同様に時間が限られていたため、法的観点からの問題点指摘が足りていなかったこと
  • 本取得案件の社内の意思決定は、東京マンション事業部、マンション事業本部から直接に平野社長宛に相談され、社長がGoサインを出したため、決裁を前提に各部署での検討が進められていたこと
 このような報告が淡々と事実のみが報告されていった。
 特に最後の報告は平野にとっては非常に不利な事象だ。
 奥平には事件の概要を報告してあるが、全体を俯瞰した報告は初めて聞くかもしれない。もちろん、本件に関与していない取締役達は初耳の部分もある。
 平野は事件の報告を聞きながら、奥平の顔色だけを見続けた。今回の問題は奥平の反応が全てだ。平野から報告した際には、奥平は相当に不機嫌そうだったが、激怒することは無かった。早く全容を解明するように指示しただけだ。
 しかし、奥平は突然『キレる』ことがある。そのスイッチがどこにあるかは平野にも判然とはしなかったが、傾向としては自身の立場やプライドに抵触する時だった。社外取締役も参加している取締役会はその点から問題が発生する可能性がある舞台だった。
 奥平は報告を聞いている間は、報告書面にずっと目線を落としていた。眼鏡を外している。奥平の眼鏡は遠近両用ではなかったのかと、ふと場にそぐわない思いが浮かんだ。
 奥平の表情は読めない。奥平の性格や今までの行動を考えると、かなり怒っている可能性は十分にある。
 結局、最後の最後まで奥平は身動きをしなかった。

(続く)

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ヂメンシノ事件