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【続報】(ヂメンシノ事件22)

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 警察からの情報だったが、6月24日に真の所有者である篠原氏は死去した。満水ハウスが詐欺にあったことが判明してから、わずか数週間のことだった。本人は近年はずっと入院していたようだった。それが地面師グループに目をつけられた要因だったのだろう。

 平野が篠原氏の逝去を知ったのは通夜も告別式も終わった後だった。知っていればご迷惑をお掛けしたと葬儀に参加したかった。実際には無理だっただろう。真の篠原氏と満水ハウスとは特段の付き合いが無く、平野が出席する理由はない。それどころか、この詐欺事件がいつか表に出た際に、騙された満水ハウスの社長が本人の葬儀に参加していたというマスコミのネタになってしまうかもしれなかった。しかし、平野は参列したかった。ご本人は今回の事件を知らなかったかもしれないが、父親から受け継いだ大事な土地が自分の知らないところで取引されようとしていたのだ。普通の状態だったら、心穏やかではないだろう。なんとも言えない申し訳なさを平野は感じていた。

 続けて数週間後に7月4日付で海猫館の土地が所有権移転登記されたことが判明した。篠原氏の二人の子供に相続されていた。お子さん達も安心しただろうと平野は感じていた。

 7月25日には所有権移転請求権仮登記の抹消もなされた。原因は6月13日付の解除だ。
 当然ではあるものの、これで満水ハウスに海猫館の土地が手に入ることはなくなった。まさに嵐のような1ヶ月だった。

 平野は自分が嵐の海に漂う小さな船のように感じていた。大きな抗いがたい流れに身を任せるしかなかった、そんな日々が瞬く間に過ぎた。

(続く)

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ヂメンシノ事件