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【11月20日取締役会①】(ヂメンシノ事件40)

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 11月20日14時。取締役会がスタートした。

 今回の取締役会は物件の取得等についての議題があったものの、大きな議題ではない。参加する取締役の誰もが『その他』としか記載されていない議題に注目していると想定された。

 取締役会の議長はいつも通り奥平だ。

 満水ハウスの取締役会規則では、取締役会の招集及び議長は、取締役会長が行うと定められている。そして、会長が不在の場合は社長が招集権者および議長となることになっている。ここでも平野は二番手だ。

 通常通り議事が進行されていく。

 そして『その他』となった。

 奥平が少し早口で発言をする。

 「その他の議事です。まず、ご出席取締役の皆さんから、議事として提示したいことはありますでしょうか。」

 このコメントは面倒臭そうに奥平が発言するのが常だ。形式的なことを嫌う奥平らしい。奥平を除けば、その他の議事を提示した取締役は存在しなかった。

 「各取締役からは特段の議事提示がございませんでしたので、議長である私から少しお話をさせて頂きます。これは議事というものではありませんが、取締役会で議論する必要があると考えています。」

 一瞬の無言が場を支配する。

 西日本営業担当の取締役が、平野の方をチラッと見た。平野があえて目線を合わせたところ、その取締役は俯いてしまった。

 「先日議論させて頂きました五反田の詐欺事件についてです。私は、前回の取締役の場で平野社長に退任したらどうやと伝えました。このような人事にまつわる話は、人事・報酬諮問委員会で諮るのが、我が社のルールからいけば筋かもしれません。それは私も認識しています。しかし、社長が自ら我々に語り掛けてくれる場を設ける必要があるのではないかと私は考えた次第です。この議事については、我が社の人事に関係することであり、これから平野社長からどのようなお話があろうとも、守秘義務の対象となります。よろしくお願いします。」

 ここまでの話を、奥平は一気にしゃべった。原稿を見ていなかったことから、ある程度入念に準備をしてきたのだろう。そして、おもむろに平野の方を向いた。表情が発言を促している。

 何事も覚悟が重要だ。妻の顔が一瞬浮かぶ。複雑な感情も。しかし、全てを表面化させてはならない。そんな時間も余裕もない。やるしかない。

(続く)

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ヂメンシノ事件