事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

【11月20日取締役会前の朝②】(ヂメンシノ事件39)

f:id:naoto0211:20190505142249j:plain

 今は、大工こそが住宅の性能を左右する。しかし大工は高齢化により人手不足となった。満水ハウスは、大工の人手不足を補うために、熟練者でなくとも施工が行えるように、可能な限り工場で部材を組み立て、現場の工事を標準化してきた。1週間ぐらい研修を行えば、住宅の『組み立て』は誰でもある程度は可能なはずだ。この仕組みは、プレハブメーカーとしての満水ハウスの品質を担保し、工期を短縮し、競争力を確保してきた。

 しかし、住宅に求められるものは、今後変わってくる可能性がある。今までは、住宅は住民を災害から守り、断熱等の省エネ性能、バリアフリー対応、間取り、採光等を考えれば良かった。この分野で満水ハウスのノウハウは日本一と言っても良いだろう。

 ところが、住宅に求められるものが変わっていく可能性はあるのだ。恐らく、現在の基本的なニーズは変わらない。しかし、それ以上に、既存の住宅メーカーには苦手な分野が求められる可能性はある。

 例えば、住宅は太陽光発電等の再生可能エネルギーによって自家発電・自家消費をすることが当たり前の時代が来る可能性があるが、この自家発電・自家消費を可能とする核となる技術は蓄電池のコストダウンおよび性能向上だ。蓄電池の技術を独占できるハウスメーカーが優勢となるだろう。

 また、家の快適さを左右するのは、ソフトウェアになるかもしれない。Amazon.comが開発したアレクサのような人工知能が住宅のソフトウェアとなり、冷暖房の調整、換気、ごみ収集日等のスケジュール管理、生活必需品の注文・補充等を行うことになるかもしれない。利益の源泉、付加価値はソフトウェアとなった時に、住宅メーカーの利益はどうなるのか。

 そして、究極の自動運転、すなわち人間が運転をしなくても良い自動車が実現されたら住宅はどうなるのだろう。

 自動運転車が勝手に走行できるようになり、電気代が十分に安ければ、郊外の安い駐車場で十分になることが容易に予想される。乗車していた人は自宅の前で降りるが、自動車は勝手に郊外の駐車場に帰っていく。掃除機のルンバが勝手に充電場所に戻るようなものだ。

 不動産は駅近であれば間違いないといわれてきたが、自動運転が普及すればこの神話も崩れるかもしれない。郊外から自動車で寝ながら出勤するライフスタイルが一般的になる可能性だってあるのだ。

 もちろん、完全な自動運転はそう簡単には普及しない。技術的な課題、事故が起きた時に『誰が』責任を取るのか等、問題は山積だ。しかし、20年前にスマートフォンの普及を予測した人はいただろうか。Amazon.comがここまで巨大になることを予測できた人は存在するか。パラダイムシフトは急激に起こる可能性がある。経営者にとっては、予測をすることも必要だし、その予測に対して手を打っておくことも必要だ。

 自動車メーカーの無資格検査問題の記事を読みながら、平野は思考にふけっていた。

 しかし、ふと我に返る。

『こんなことを考えても意味はあるのか。自分は、もう少しでクビとなりそうなのだ。社長の座を下ろされそうなのだ。』

 そこで思考は中断した。

 本日は朝一番に弁護士との打ち合わせがある。気持ちを切り替えねばならない。まずは、目の前のことに全力を出す、それが平野の信条だ。

(続く)

<今すぐに全文を読みたい方はこちら>


ヂメンシノ事件