事実はケイザイ小説よりも奇なり

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帝國銀行、人事部127

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「統合時にシステムは旧帝國に一本化されたことが大きく影響していると人事部では分析しています。システムが旧帝國に片寄せされたことで、事務が分からない旧Yの上司が大量に存在します。この旧Yの役職者は、部下の業務がはかどらなくてもシステムや業務ルールが分からないため、本来の業務指導も出来なければ、業務がうまく行かない要因の解明も出来ません。そのため部下を怒るしかなくなる傾向にあるものと思われます」

「ふん。それで」西山が興味を持ってきたようだ。

「既に旧Yの牙城である横浜の企業取引を除けば、大企業取引担当の大部分は旧帝國出身者が占めています。これを加速し、旧Y出身者を個人取引、すなわちリテール分野にシフトしていくことを人事部としては考えています」

「それは意味があるのか」

「これからのリテール分野は大きな変化に直面します。業務のデジタル化によって店舗は軽量化され、事務担当者は大幅に削減されます。窓口客をインターネットバンキングへ誘導し、来店客は基本的にじっくりと資産運用を相談したいお客様に限定していきます。一方で、削減された要員は、渉外に回します。慣れた事務から外れ営業に従事するベテラン女性行員の中には退職を選択する者も多いでしょうが、かまいません。事務を減らし、営業を増やし、トータルの人員を削減することによって低採算部門であるリテール部門を立て直します。リテール分野はシステム含めて大きな変革期にあり、都市銀行と言いながら巨大地銀でもあった旧Yの営業力と企業風土はリテール分野に適しています。また、リテールのシステム・業務フローは比較的シンプルですので、旧帝國のシステムに慣れていなかったとしても旧Yも同じ競争のスタートラインに立つことが出来ると認識しております」

「ま、良いだろう。良い解答だった。私が思い描いている姿と同じだ。ただし、一言伝えておく。リストラの手は緩めるな。銀行は大きな変革期にある。これからデジタル人材、一般に言うところの理系人材が必要だ。思い切った入れ替えが必要かもしれない。もう旧帝國だ、旧Yだと色分けしている場合じゃない。昨日の人財が不良資産になってしまうかもしれない世の中だ。使えない人材は可能な限り、切れ。それが頭取としての指示だ」

「承知しております。今年度、来年度は、特にバブル入行組とリーマンショック前後の大量採用世代に重点を絞り対処してまいります」山中は躊躇なく答えた。