昼食が終わって少し経った時間だ。
スマートフォンが鳴った。常務の真中からだった。自分に直接電話してくるなんて珍しい。何かあったのか。
「もしもし、平野です。どうかしましたか?」
「平野社長、お忙しいところ申し訳ないです。担当直入に申し上げます。詐欺に引っかかりました。」真中の声がいつもとは全く違った。本当に真中からの電話だろうか。詐欺という言葉が発せられたようだが、頭に入ってこなかった。
「は?何のことですか?」
「五反田の海猫館です。購入代金を払いましたが、詐欺です。警察には連絡しました。」真中の話しぶりは慌てており、いつもは低い声が、上ずっていた。
「どういうことか、もっと詳しく話をしてくれませんかね。」
「はい。所有者ではない第三者が真の所有者のフリをしていました。購入代金のほとんどは戻ってこないでしょう。」
少し間が空く。もう一度、今度は低くなった声が語り出す。
「損失は55億円です。」
(続く)
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