事実はケイザイ小説よりも奇なり

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【10月某日②】(ヂメンシノ事件32)

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 ビールはサントリーと決めている。関西はサントリーだ。ずっと赤字を続けながらビール事業を育てたサントリー創業者のエピソードは関西の財界における伝説の一つだ。

 女将が瓶ビールを運んできた。慣れた手つきで平野、そして草薙に注いでくれた。

 「改めまして乾杯。」

 グラスのビールを飲み干して、やっと平野のペースが戻ってきそうだった。

 草薙のグラスにビールを注ぐ。サラリーマンのお約束のような動きをした後に、早速切り出した。

 「草薙さん。折り入ってご相談があります。」

 「今日は単刀直入ですね。」

 「はい。ご承知の通り私は社内で追い込まれています。」

 「そうですね。この前の取締役会はひどいもんでした。箝口令を引こうとしたのですが、社内では噂が広がってしまっています。」

 「私がクビになると言われているんでしょうね。」

 「隠してもしようがないですね。その通りです。」

 「そこまでストレートに言ってくださると気持ち良いですよ。」

 ビールを一口飲む。プレミアム・モルツのやわらかい泡が喉をすべりおりていく。ここからが本番だ。

 「草薙さん。助けてください。私はこの会社でまだやるべきことが残っているんです。」

 一瞬の沈黙が訪れた。

 「助けろとはどのようなことですか。奥平会長に私が話しても、効果は無いと思いますよ。」

 「そんなことをお願いするためにお誘いした訳ではありません。来るべき日に向けて取締役会での票集めをお願いしたいんです。」

 草薙が下を向いた。ビールのグラスを眺めたまま動かない。再びの沈黙が訪れた。

 「草薙さん。今の満水ハウスに問題を感じていませんか。財務部門を仕切るあなたなら分かっているはずです。」

(続く)

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ヂメンシノ事件

<本文で出てきたビール(ご参考)>


サントリー ザ・プレミアム・モルツ [ 350ml×24本 ]